「左右なまこ透かし といわれる形で、海鼠鍔と呼ばれる簡素な図柄で、それ以前に見られない形なので、たぶん武蔵の創造でしょう。
右の写真は駄作ですが、正真物は、曲線、姿型、肉の置き様、腰の締まり、バランス、
凛凛たる張り、のびやかさ、厳しさに於いて抜群の感覚です。
武蔵作の海鼠鍔は、その後の時代、幕末、明治に至るまで、様々な鍔工、金工師が模作していますが、どうしても、洗練味と緊張観において到底及ばないものです。
これは武蔵が天性の資質に加えて、肥後藩お抱えの鍔工名人たちとの、深い交流があったことを示します。
写真の二段目が中央刀剣会所蔵の最高の出来口の武蔵の作鍔です。
その後、幕末に到るまで、様々な鍔工、金工師達がこのナマコ鍔に、挑戦したのですが、およびません。
武蔵の最晩年と、死後に、肥後隈本では、名鍔工達が輩出しました。
武蔵が、影響を受けたというよりも、鍔工達が武蔵の剣境、禅境の影響を受けたように思います。
特にこの写真の不世出の名人、林又七の鶴丸の図柄ですが、鶴が、今にも天空に翔び舞い上がらんとする勢いと力が漲り溢れています。
この図柄は家紋にもあり、後世の鍔工達も、様々に工夫して、独特の情趣のあるものを作っているが、翔の勢いと「張り」に於いては及びません。
このことは全体としては、刀剣にもいえるようです、、。
これは、往昔の時代の緊張感、と厳しさの違いからも来るものなのでしょうかねエ、、。
一番上の写真の、デレレ、ベタラ~~~ンとした、現代製と、真ん中の武蔵の立体感に溢れて、ピシャリ!と締まったナマコ鍔との違いを、わずかでも感じて頂ければ幸いです。
値段で言うのもナンですが、カタヤはン千円、カタヤは、1千万?でも出ないものです。
中段の武蔵作鍔と、下段の又七鶴丸鍔の写真は、中央刀剣会発刊、山田英著、「日本刀、本質美にのもとずく研究」から、転載したものです)
最後に又七の「遠見の松」も転載しました。
肉置きの力観とともに、三本の松の木の配置と、鍔淵の自在に揺らぐ耳からも、砂丘と潮騒・波の音を感じませんか、、、。
大名人たる由縁です。
比べるのもなんですが、北斎はもとより、ゴッホやセザンヌなども遠く及ばないものと感じています。